自尊心とは、自分自身を価値のある存在として尊重する気持ちです。仕事で失敗したときや、誰かに否定されたときでも、「うまくできなかった自分にも価値がある」と考えられる感覚が含まれます。
一方で、自尊心は「いつも自信があること」や「人より優れていること」とは異なります。自分の苦手な部分や失敗も含めて、自分をどう受け止めているかに関わるものです。
この記事では、自尊心の意味、自己肯定感や自尊感情との違い、自尊心が低くなる背景、日常生活で少しずつ高めていく方法を解説します。
自尊心とは?心理学における意味

心理学でいう自尊心は、英語の「self-esteem」にあたる言葉です。自分の性格や能力、外見、これまでの経験をどのように評価しているか、そして自分をどの程度価値のある存在と感じているかを表します。アメリカ心理学会も、自尊心を自己概念に含まれる特徴をどの程度肯定的に認識しているかという意味で説明しています。
日本語では、自尊心と自尊感情がほぼ同じ意味で使われることがあります。厚生労働省の「こころの耳」でも、セルフエスティームは「自己肯定感あるいは自尊感情」と説明され、自分自身を価値あるものとして尊重する感覚とされています。
ただし、「自尊心」という言葉には、日常会話で少し違う意味が加わることがあります。たとえば「自尊心を傷つけられた」という場合、能力や人格を否定されたように感じた状態を指すことが多いでしょう。
自尊心が安定している人でも、落ち込んだり自分を責めたりすることはあります。大切なのは失敗や否定的な評価があったときに、それだけで自分全体の価値を決めないことです。
自尊心・自己肯定感・自尊感情の違い
自尊心、自己肯定感、自尊感情は、日常では似た意味で使われます。専門の分野や文献によって定義が異なることもあるため、完全に別のものとして区切るより、重なり合う概念として理解するとよいでしょう。
| 言葉 | 主な意味 | 日常の例 |
|---|---|---|
| 自尊心 | 自分を価値ある存在として尊重する気持ち | 失敗しても、自分の人格まで否定しない |
| 自尊感情 | 自分の価値や能力について抱く感情や評価 | 「自分にもよいところがある」と感じる |
| 自己肯定感 | ありのままの自分を肯定的に受け止める感覚 | 得意な部分だけでなく、苦手な部分も含めて自分を認める |
自尊心と自己肯定感の違い
自尊心は、「自分を大切に扱う」という意味が比較的強い言葉です。自己肯定感は、「今の自分をそのまま受け止める」という意味で使われることが多くあります。
たとえば仕事でミスをしたときに、「ミスは反省したい。でも、ミスをしたからといって自分には価値がないわけではない」と考えられるなら、自尊心が保たれている状態といえます。
「自分は仕事ができるから価値がある」と考えるだけでは、評価や成果が下がったときに自分の価値も大きく揺れやすくなります。自己肯定感や自尊心は、成果があるときだけ自分を認めることではありません。
自尊心と自尊感情はどう違う?
自尊心と自尊感情は、ほぼ同じ意味で使われることが多い言葉です。ただし、自尊心は「自分を尊重する姿勢」、自尊感情は「自分に対する価値評価や感情」と説明されることがあります。
研究や教育の場では、自己肯定感、自尊感情、自己受容などの言葉が近い意味で使われることが多く、定義が一つに定まっているわけではありません。
自尊心が低くなる原因とは
自尊心が低くなる理由は人それぞれ違います。家庭環境だけ、性格だけ、過去の失敗だけが原因だとは言えません。いくつもの経験が重なって、自分への見方が少しずつ否定的になることがあります。
否定や比較が続いた経験
子どものころから「もっと頑張りなさい」「どうしてできないの」と言われ続けたり、きょうだいや同僚と比較されたりする経験が多いと、自分の価値を他人の評価で決めやすくなります。
SNSで周囲の成功や楽しそうな場面を見続けることも、比較を強めるきっかけになることがあります。相手の見えている一部分と自分の生活全体を比べると、「自分だけが遅れている」と感じやすくなります。
失敗や拒絶を強く受け止めている
受験、仕事、恋愛、人間関係などで大きな失敗や拒絶を経験すると、その後、似た場面を避けたり挑戦する前から「また失敗する」と考えたりします。
一度の出来事を「自分は何をやってもだめだ」という全体的な評価に広げると、自尊心が傷つきやすくなります。これは意志が弱いからではなく、強い感情を伴う経験が自分への見方に影響している可能性があります。
自分への要求が高すぎる
完璧にできたときだけ自分を認める人は、努力や途中経過を評価しにくい傾向があります。「できて当然」「もっとできるはず」と考えていると、実際には十分に頑張っていても自分を肯定できません。
自己肯定感が低いのにプライドが高いのはなぜ?

「自分に自信はないのに、批判されると強く反発する」という状態は、一見すると矛盾しているように見えます。しかし、プライドと自己肯定感は同じものではありません。
プライドは、能力や立場、理想の自分を守ろうとする気持ちとして現れることがあります。一方、自己肯定感は、成果や評価が十分でないときでも自分を受け入れられる感覚です。
自分に自信がないほど、他人からの批判を「行動への意見」ではなく「人格全体への否定」と受け取りやすくなります。そのため、傷つかないように言い返したり、弱みを見せなかったり、助けを求めなかったりする反応が出ることがあります。
たとえば、職場で「この資料は少し修正が必要です」と言われたとき、「自分の仕事の一部に修正が必要」という意味ではなく、「能力がないと言われた」と受け止めて強く反発するケースです。内側にある不安を守るために、外では強い態度をとることがあります。
この反応をすぐに「性格が悪い」「プライドが高すぎる」と決めつける必要はありません。心理カウンセリングの観点からは、批判されたときに何を恐れているのか、どんな自己評価が刺激されているのかを整理することが自分を理解する手がかりになります。
自尊心を高めるためにできること
自尊心は、急に高くしようとするより、自分への接し方を少しずつ変えることで安定することがあります。無理に前向きな考えを持とうとする必要はありません。
できたことを具体的に記録する
「今日は何もできなかった」と感じた日も、起きた、食事をした、連絡を返した、仕事や学校に行ったなど、実際に行ったことはあるかもしれません。
寝る前に、その日にできたことを一つだけ書いてみましょう。「会議で一度発言した」「疲れていたので早めに休んだ」のように、結果ではなく行動を具体的にするのがポイントです。小さな行動を確認することは、自分を正確に見直す助けになります。
自分へかける言葉を現実的に見直す
「自分は何をしてもだめだ」と思ったとき、無理に「私は最高」と言い換える必要はありません。まず「今日はうまくいかなかった。すべてがだめという意味ではない」と、事実と評価を分けてみます。
セルフコンパッション、つまり苦しいときの自分に対して思いやりを向ける方法もあります。友人が同じ失敗をしたときにかける言葉を自分にも向けてみてください。
「緊張していたから失敗することもある」「今は落ち込んでいても、考えが変わることはある」といった言葉であれば、現実を否定せず自分を支えられます。
他人との比較を減らす工夫をする
比較を完全になくすのは難しいため、比較する時間や対象を調整しましょう。SNSを見る時間を短くする、疲れているときは他人の成果を見ない、自分の過去との変化を確認するなど、できる範囲で環境を整えます。
「他人より優れているか」ではなく、「先週より少し休めたか」「以前より自分の希望を伝えられたか」といった基準を持つと、自分の変化に気づきやすくなります。
境界線を意識する
自尊心が低いと、嫌なことでも断れなかったり、相手の機嫌を優先しすぎたりすることがあります。自分の希望や体力を確認し、「今日は難しいです」「少し考えてから返事をします」と伝える練習も、自分を尊重する行動です。
最初からはっきり断れなくても、「今は決められません」と保留にするだけで構いません。自分の気持ちや都合を無視しない経験を重ねることが、自尊心を支えることにつながります。
つらさが続くときは専門家に相談する
自分を責める気持ちが長く続く、眠れない、食欲が大きく変わった、人と関わることが難しいと感じる場合は、一人で対処し続けなくてよい状態かもしれません。
カウンセリングでは、現在の悩みだけでなく、過去の経験や人間関係、自分を責める考え方のくせを整理できます。精神科や心療内科では、気分の落ち込みや不眠などの症状について医療的な相談ができます。どちらが合うか迷う場合は、まず相談しやすい窓口から尋ねてもよいでしょう。
自尊心の低さは、本人の努力不足だけで起きるものではありません。また、前向きな言葉を自分に言い聞かせれば、すぐに変わるとも限りません。自分を責める時間を少し短くし、できたことや感じたことを丁寧に確認する。その積み重ねから、自分を尊重する感覚を育てる可能性があります。



